肉球いぬねこ先生通信「犬のクッシング症候群」

犬にもストレスが関与する病気がある!ホルモンの病気「クッシング症候群」を学ぶ

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獣医師岩崎脩先生

こんにちは。いぬねこ先生です。

先日、NHKスペシャルで放送された『キラーストレス』というシリーズの特集を見ました。これまで体に悪いと考えられてきた「ストレス」が本当に人間の体に深刻な影響をもたらすという事実を最先端の研究から明らかにして、その効果的な対処法を探るという内容。「体によくない」と漠然としたものだったストレスの実態が見えてくる実に興味深い番組でした。

動物にもストレスが関与する病気がありますので、今回は『犬のクッシング症候群』というホルモンの病気について解説します。

犬のクッシング症候群って?

動物の体の中には様々な働きを持った物質(ホルモン)が全身の決まった場所に作用して生命を維持する仕組みがあります。血糖値を下げる「インスリン」も興奮した時に出る「アドレナリン」もホルモンのひとつです。

腎臓のそばにある副腎の皮質という場所からは「コルチゾール」というホルモンが分泌されています。過剰なストレスを感じたときに分泌量が増加するいわば「ストレスホルモン」です。副腎に「コルチゾールを出しなさい」と命令するホルモン(副腎皮質刺激ホルモン)もあり、それは脳の下垂体という場所から出ています。

コルチゾールは様々な機能があり、代謝に関わったり炎症を抑えたりと生命の維持には不可欠なホルモンですが、必要なときに必要なだけ分泌されなければなりません。しかし副腎からコルチゾールが常に過剰に分泌される病気が『クッシング症候群』です。ですから別名を『副腎皮質機能亢進症』といいます。

ヒトの副腎皮質機能亢進症は10万人に1人の稀な難病ですが、犬の発病率は500頭に1頭程度で比較的よく遭遇するホルモンの病気です。

犬のクッシング症候群3つのタイプ

クッシング症候群のタイプは原因により3つに分けられます。

①下垂体性(PDH)
下垂体の腫瘍により副腎皮質刺激ホルモンが過剰になった結果、副腎からのコルチゾールが過剰になるパターンで、犬のクッシング症候群の90%を占めます。

②副腎腫瘍(AT)
副腎が腫瘍化することでコルチゾールが無秩序に作られ過剰になるパターンです。犬のクッシング症候群の10%程度です。

③医原性
すでにわかっている病気に対する治療(例えばアトピー性皮膚炎)のためにステロイド剤を長期間内服していた時に起こります。

クッシング症候群の治療についてはあとで解説しますが、医原性以外は腫瘍だということは覚えておきましょう。

犬のクッシング症候群に見られる特徴的な体系や症状

クッシング症候群のわんちゃんは特徴的な体型や症状を示します。なので獣医師がクッシング症候群を疑う犬を診察した時に必ず飼い主さんに聞く質問があります。
それは
「たくさんお水を飲んだり、おしっこの量は多くないですか?」
です。

以前、たくさんお水を飲みたくさんおしっこをする『多飲多尿』という症状は病気のサインかもしれないという記事を書きました。クッシング症候群の犬の、実に9割以上に多飲多尿が認められるのです。異常な食欲、ビール腹のようにお腹がぽっこり膨らんできたり、皮膚が弱々しく薄くなるような症状も8割以上で見られます。

クッシング症候群

臨床症状や身体検査からクッシング症候群が強く疑われると一般的には血液検査、尿検査、画像検査、ホルモン検査などを実施します。

血液検査ではコルチゾールの元となるコレステロールやコルチゾールの影響を受けたALPという項目がよく上昇します。ストレスパターンという白血球の変動もあるかもしれません。尿検査では多尿により尿が薄くなっていることを確認します。糖尿病を併発していることがあります。

レントゲンでは大きくなった肝臓や石灰化した皮膚や副腎腫瘍(AT)が見つかることもあります。エコー検査では副腎が腫大したり丸く腫瘍化していないかを確認します。スクリーニング検査のために、もしくは①下垂体性か②副腎腫瘍かを鑑別するためにホルモン検査を行います。

いくつかの方法がありますが、完全な検査はないので、様々な検査結果と併せて総合的に判断します。

犬のクッシング症候群の治療法

次にクッシング症候群の治療についてお話しましょう。クッシング症候群の治療はタイプによって違います。

①下垂体性(PDH)
多くは『微小腺腫』と呼ばれる小さな腫瘍なので内科療法が選択されます。コルチゾールはコレステロールから作られるので、お薬を飲むことによってそのいくつかの経路を阻害して症状の改善を試みます。

ただし、下垂体性クッシング症候群の3割のケースは『巨大腺腫』といって大きな腫瘍です(微小腺腫でも内科治療で下垂体が大きくなっていく可能性があります)。このようなケースだとのちに痴呆のような神経症状が現れ、予後や生活の質が大きく悪化してしまいます。

神経症状がでる前であれば放射線治療や下垂体そのものを切除する治療も考慮されます。つまり下垂体のサイズは下垂体性クッシング症候群の予後に大きく関わるのです。ですので、本来ならば治療を開始する前や内科治療をしていても定期的にMRI検査やCT検査などで下垂体のサイズを見ておくのがベストでしょう。

②副腎腫瘍(AT)
完全摘出が可能な腫瘍であれば副腎腫瘍の摘出、不可能な場合は内科治療が選択されます。副腎腫瘍は周囲の血管などに浸潤しているようなことも多く、高度な手術テクニックや集中治療が必要です。

③医原性
これまで使っていたステロイドを徐々に減らし中止しなければなりません。そのため元からの病気の治療方法を再検討する必要があります。

医原性

内科治療の際の注意事項

最後に内科治療をしていく際の注意事項をいくつか説明しておきます。

うまく内科治療が進めば多飲多尿などの症状は数週間で、皮膚症状は数ヶ月で目に見えて改善されていきます。症状が治ればそのまま薬を続けますが、改善しなければ薬を増やす必要があります。臨床症状の改善が最優先ですが、それでも定期的にホルモン検査や画像検査を行いましょう。薬を始めてから元気も食欲もないようだと薬の副作用などが疑われるので、一旦中止して動物病院に行ってください。

コルチゾールはもともととストレスから体を守るために存在するホルモンなので、薬によってコルチゾールが抑えられているときに強いストレスがかかれば最悪ショックに陥って亡くなってしまうことが心配されます。麻酔や手術、ホテルや入院などストレスが予期される時には、獣医師の指示のもと一時的に休薬する必要がありますのでご注意ください。

またクッシング症候群があったとしても腎臓病など全身の重い病気を治療中の場合はそちらの治療が優先されます。すでに飲んでいる薬がクッシング症候群の薬と併用できないことがありますので獣医師に確認しましょう。


獣医師岩崎脩先生

協力:
昭島動物病院(東京都昭島市)
獣医師 岩崎 脩 先生
http://www.aaho.jp/

動物と飼い主様のより良い信頼関係の構築に貢献できるような情報を提供していきたいと思います。


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